楓さんとの一夜

深夜1時。
楓さんの彼氏からの連絡が来たことを確認して、楓さんとS街で合流。
キャッチがうろつき、やや冷たい風が吹く街を2人で歩く。
楓さんはそういう状況になることにちょっと恥ずかしい様子で、
ふたりでお酒を飲んで景気をつけてから「そういう場所」に行こうという話に。
で、コンビニでお酒を買う。ついでにお菓子も。
妙なテンションの中、ふたりで街をぐるぐると回ってホテルへと入る。
 
ホテルの中はシティホテル並みの綺麗さで、いやらしさが微塵も無い。
僕らは部屋の中でゆっくりと抱き合って、キスをした。
人目につく場所でするそれとは違って、焦りもなく、
僕らは長い間口付けを交わしていた。
 
一段楽した後、ベッドへなだれこむ。
と言っても事に及ぶわけではなく、
腕枕をして天井を眺めながらしゃべり続けていた。
彼女のやわらかい手を握り締めて、時折キスをしながら、
二人でこうしてこの場所にいることの不思議さや、
お互いの気持ちについて話し合ったりした。
 
不思議だった。
 
仕事場で指示を仰ぐ相手だったはずの楓さんが、
こうしてホテルの中で僕と並んでベッドの上に横になっている。

人の縁というものは本当に不思議だ。
どんな人がどんな風に結びつくのか検討もつかない。

ふっと話の流れが途切れて、お互いがお互いを見つめて。。。
僕らは結ばれた。
久しぶりにそういう行為に及んだので、僕は何だか気恥ずかしかった(笑)。
とってもとっても安らかで温かだった。
 
僕は楓さんと出会ったことで間違いなく心が楽になったし、
出来ることならこれからも共に過ごしていきたいと思う。
 
けれど楓さんには長い間付き合っている彼氏がいる。
僕が持っていないものをたくさん持っている彼氏。
その人が持っていないものを僕は持っているわけで
だからこそ一緒にいるんだろうけれど、
彼氏が持つ物質的な余裕は満たしてあげられない。
 
それが、とてつもなく辛い。
僕は奪いたくても奪いきれない。
気持ちは奪うことが出来たとしても、その相手自身を置いて置ける場所は、
今の僕の身の回りには無いのだ。
哀しい。