この季節に訪れるその薫り、その温度を肌で感じたら最後、僕は瞬く間にその子の手のぬくもりや、声や顔や部屋の様子、一緒に町を歩いた記憶を思い出す。
バス停にやってきた僕を見つけて走り出す彼女の姿や、目白の街を夜通し歩いた記憶は、決して消えることはない。

そして、囚われる。
 
僕は、
 
 
もしその子が帰ってきたとしたら、
 
 
今好きな人を離してしまいそうな気さえする。