孤独との戦い。

 良いことも、悪いことも、すべて自分のために記しておくのが、このジンジャー。
 今日は朝から大学に行った。三限まで講義を受けた後、新宿に移動してスタバで就職活動中の学生に向けたメッセージの作成に勤しむ。
 ふと、携帯の中の楓さんの写真を見ることを思い立つ。18日に撮ったプリクラの画像を見る。
 そろそろ、一週間会っていない。
 "会いたい。"
 なんとなくそう思って、彼女の携帯電話宛てにメールをしてみた。
 【シャンプーを変えて髪の毛がサラサラしているから、会いたい】と送ってみた。彼女の仕事が終わる定時の、30分前だった。
 ――待てども待てども、連絡は来ない。
 "あー、今日は残業だな。"
 そう思って、帰ることにした。20時には前のバイト先で一緒だった女の子の友達のMいと会う予定が入っていた。
 家で食事を済ませ、20時に地元近くの駅でMいと合流。カフェで話をしている間も、連絡がない。不安に駆られながら、Mいの前にもかかわらず何度か携帯をチェックしてしまう。
 連絡が来たのは、21時過ぎだった。慌てて店を出て、電話を掛ける。
 「もしもし…」
 『ごめん、もう家だから><』
 10秒で切った。
 折り返し、メールが来た。【今週はバタバタしているから会えないかも。】
 そういえば記念日がどうだとか言っていたような。理由を思い出したのはよかったが、モヤモヤ感が消えない。ここ数日、朝と帰宅前にしかメールが届かないこともあって、ちょっとイライラしていた上にこの連絡だったので、余計にイラついてしまった。
 『Sinくん、イライラしてるよ?』目の前のMいが言う。
 気分を変えたかったので、僕らはカフェを後にして散歩することにした。近くの大学まで足を伸ばして、構内を歩きながら色々な話をした。
 これまでの経験から、Mいが僕に好意を抱いていることは気付いていた。でも、僕はその状況を動かすことはしてこなかった。単純に、したくなかったし、意味がないような気がしていたからだ。
 でも、今日は違った。楓さんの連絡から来る(ホントは自分が勝手にイラついているせいだが)焦燥感も手伝って、なんとなく、手をつないでしまった。離されないだろうと踏んでいた。当然、離されない。そのまま人目につかないところで、数分抱き合っていた。やわらかな胸に触れる。驚きつつも、抵抗をしないMいを抱いている僕の頭の中には、楓さんのことしか浮かんでこなかった。
 貴女が見たらどう思うだろう?この行動を知ったら、貴女は哀しむのだろうか?それとも、良かったねと言って微笑み返すのか?
 からからに干上がった砂のように、心が乾ききっていることを感じた。彼女を抱きしめていても、その砂の心に潤いは訪れない。冷たく刺さる夜の風が、よりいっそう心の乾きを強く感じさせているような気さえした。
 辛かった。ここまで好きであることも、その相手に会えないことも。ずいぶんとまともな感性を取り戻していた僕の心の中に、楓さんという人物は大きく根を張ってその存在の強さを増していた。
 ややあって、僕は彼女から身を離した。抱き締めていることが、心の中で、重く、重く、鉛の様に自らの体にまとわりつき、鈍い感覚を呼び寄せていた。
 駅までの帰り道、その手は繋がれていたままだったが、僕はそこに何の未来も感じ取ることが出来ずにいた。
 ずっとずっと、囚われている。二年前の今日も、こんな風に携帯をチェックして過ごしていたことを、帰り道に思い出した。