A街を出て。

電車に乗り込む僕とSか。時間は22時過ぎだった。
 
「あたしはまだSinと一緒にいたい。」
「僕はお金ないから無理だよ。」
「誰か呼ぼう、Sinの友達を呼んでよ。」
「誰も来てくれないだろ」
「いいから呼んでーメールしてみてよー」
 
高田馬場に住んでいる友人にコンタクトが取れた。
23時にバイトを終え、23時半には高田馬場に着くらしい。
僕らはそれまでゲームセンターで時間を潰すことにした。
 
ジャックポットを楽しんだ後、友達と会う。
 
友達も大してお金を持っていなかったので、
フリータイムのカラオケに入る事にした。
誰とでもすぐにある程度うち解けられるのがSかの長所だった。
もっとも、それが本当の顔なのかは分からないけど。

コンビニでお酒を数本購入してカラオケに入った。
 
部屋に入って3人でしばらくカクテルとビールを飲みながら話をして、
友達がトイレに出た後、Sかは僕を抱き締めてきた。
そして泣きそう声で、ゆっくり僕に話した。
 
「Sin…いつもいつもワガママばかり言ってごめんね…いつもSinと一緒にいたくて、ワガママばかり言って困らせて、でもSinはあたしのワガママを嫌がったりしないできちんとかまってくれて、ずっとあたしの傍にいてくれて、本当はすごく嬉しいんだよ…。
Sinが大好き、愛してるの、本当だから…Sinは妬くけど、元彼とはメールしかしてないし、会うことなんて滅多に無いし、ほんとにSinが好きなんだよ…あたし普段は強がって、こういうこと何も言えないから…でも本当なの、お酒飲んで酔ってる今しか言えない、分かって…」

 
Sかが一通り話し終えるまで、僕はずっと聞いていた。
僕はSかに「ありがとう」と言って、きつく抱き締めた。
Sかは僕の首筋にまたシルシを付けた。
僕はその時すごく幸せを感じていたと思う。
 
でも1つの発言だけが気になった。
「でもあたし浮気性なんだ…」
「俺と電話したり会っていれば、浮気なんて出来ないんじゃない?」
僕はこう言ったと思う。
 
カラオケが終わり、友達の家で寝る事にした。
Sかは友達のベッドで、僕と友達は雑魚寝をしていたのだけど、
流石に冬で寒いので、セミダブルのベッドに3人で寝た。
友達はひどく酔っていてSかに手を出しかねなかったので
2時間くらいは友達を監視していたと思う。
ミニスカで寝てるんだから、危ういものだった。
 
友達がぐっすり眠り、僕も眠って起きた。Sかも起きた。
3人で出掛け、てんやで食事を取る。
日頃観察している僕は、この時点で彼女の様子がマイナス方向になっている事に気付いた。
友達を自宅に帰して、2人で漫画喫茶に入る。
無言が続く。
Sかは突然言った。
「あたしブルセラで下着売る」
Sかは手馴れたように検索をかけて、掲示板に購入者募集の書き込みをする。
彼女の荒んだ過去が僕の脳裏に浮かび上がる。
また同じ事を繰り返すのか。
またオヤジに触れられるのか。
「止めなよ」
でも彼女は止めない。
「あたし、母親にお金返さないといけないし、
洋服のお金も支払い止まってるし、
クリスマスもあるからお金作らないといけないんだ。」

携帯のアドレスを掲示板に書き込む。
僕とSかの名前が入ってるアドレス。それを公衆の目に触れる、しかも品の無い掲示板に晒すの?
僕は一気に焦燥感に駆られる。
「止めて、これ消しなよ」
「じゃあSinが全部あたしの必要なお金を持ってくれるわけ?」
吐き捨てるように言い放つSか。
 
お金が無いのは自分がバイトしないせいじゃない?
もしくはお金が無いのに無理に遊んで使い切るからじゃない?
 
僕のことが好きなら、こんなことしないで。
普通にバイトして。
 
お金なんて大して使わなくても、二人でいられれば、
それが寂しがり屋な君にとって一番の幸せなんじゃないの?
 
僕の心の声は届かない。
そして僕は彼女の「好き」と言う言葉を嘘にし、
 
彼女への不信感を、
 
 
より高めた。
 
 
彼女は電車に乗るまで、言葉を発せず、沈黙を貫いていた。