落とし穴

バイト先の3歳下の男の子が『お父さん』になった。相手の彼女は妊娠2ヶ月。産まれるまでまだしばらく時間はあるが、アルバイトで食いつなぐ訳にもいかず、彼は職探しをしていた。
彼は専門学校を卒業した後、正社員にはならずにずっとフリーターを続けていた。
就職活動をしたことがない彼に、僕は最低限の知識と、中途採用の求人情報が掲載されているサイトを教えて、後は彼に任せた。
 
数日後、彼が憂鬱な顔をしていた。
「どうしたの?」
『いや実は、仕事が見つからないんですよね。』
「そっか…家族も養うとなると、歩合の良い不動産営業とかが入りやすいしすぐに働けそうだけどね?でも拘束時間長いんだよね><」
『そうなんですよね…でも中途だとなかなか良いのが無くて…』
ここまでの会話は至って普通だった。ところが、ここで彼がポツリと言った。
『Sinさんはいいっすよね。良い大学出て、就職も決まっているし。』
 
何、それ。
 
このセリフを聞いた時…言い方のせいもあったんだが…正直ムッとした。
僕の今があるのは、過去に努力を積み重ねたからだ。浪人を経て今の大学に入り、休学したり、復学に備えて働いたり、あれこれやってきたことがあるからこそだ。
それに、専門学校にだって就活はある。その際、正社員としてどこかの会社に入っていたら、今困る事は無かったんじゃないか?
やるべき時にやるべきことをせず、うまくいかなくなった今になって他人をうらやむのはおかしい。覚悟が足りないとしか言いようがない。
無論、彼は本気で上のセリフを言ったわけではないかもしれない。のんびり暮らしていた中、突然父親になるのは…喜びも大きい反面、現実の壁にぶち当たると思う。
才覚の無い人間は無理をするべきではない。自分の歩んでいる道に先が見えなければ、さっさと見切りをつけて軌道修正をしないと、この日本の格差社会で生きるのは難しい。一度他者と差がついた部分を、わが国の社会は幾分も埋め合わせしてくれないのだ。
 
生きていることに感謝できるならば、幸せの真理を探すのも良いのだろうけど。