tears over cell phone

 それは悲しい電話だった。お風呂から上がってみると携帯がチカチカと着信を知らせている。
 なんだ?携帯を開いてみる。『着信 6件』ただごとではない。着信履歴を詳しく見てみると、バイト先の女の子のNおからだった。折り返しコールバックしようとしたその瞬間、7回目の着信が訪れた。
 すぐに出ると、電話の向こう側で泣きじゃくるNおの声が聞こえた。事は単純だった。僕の知人でもある大好きな人にフられたのだ。すごくすごく好きで、会うたびに僕に報告をしてくれていた。今日はどこ何処へ行った、今日は何を話した、今日の彼はとてもカッコ良かった、などと嬉しそうに話す彼女の表情は輝いていた。「恋する乙女」だった。
 電話で泣きながらひとこと、ひとこと、ポツリポツリと話す彼女。充実している彼女の表情を知っているだけに、僕自身もふられた報告は悲しく、やるせないものだった。涙が流れる音が聞こえてきそうなくらい、彼女は泣いていた。
 辛らつな事も伝えた。「選ばれるからこそ、選ばれないものが生まれる。」僕自身が何度も感じていることだ。選ばれないその辛さの中で輝けるかどうか。変われるかどうかが人生を切り開くためのポイントだ。顔に自信があった彼女からは、信じられない発言も飛び出した。
 きっと彼は、そういう彼女のマイナス要素を感じていたのだと思う。気持ちが高ぶったとしても、言ってはいけない事がある。他人を責める前に、そういう自分の愚かさを解消しなければ真に誠実な人間にはなれない。
 彼は彼で選択をした。それはきっと、表面的な美や評価にとらわれない、ゆるぎない信念のもとでの選択なのだと思う。そういう彼に、僕は敬意を表したい。そして、ふられた彼女に対しても、自分の内面を磨くための努力を続けて欲しいと思う。
 ただ、人が泣いているのを聞くのは、本当に辛い。。。僕まで泣きそうになった。